累風庵閑日録

本と日常の徒然

『甲賀三郎探偵小説選III』 論創社

●『甲賀三郎探偵小説選III』 論創社 読了。

 甲賀三郎って、ページ数の割に複雑すぎるネタを盛り込む癖があるのだろうか。最後の二ページくらいで、二重三重に入り組んだ真相がぶちまけるように明かされる作品がちょいちょいある。伏線も推理の過程もなく、ただ真相だけがいきなり探偵の口から語られるのだ。そういった、探偵が事件を解決するのではなく作者が真相を説明するタイプのミステリは、どうも私の好みから外れている。

 そんな作品が多かった手塚龍太シリーズ七編の中では、「傍聴席の女」、「緑色の犯罪」といった辺りが気に入った。前者は裁判が題材な事もあって、二転三転する展開に引き込まれる。後者は殺人のネタはすぐに気付いたが、そのネタを支える背後の趣向が秀逸。シリーズのベストは「蛇屋敷の殺人」で、海外ネタをベースにさらに発展させる展開も、複数の趣向がからみあった真相も、共にお見事。

 シリーズ以外では「日の射さない家」が一番気に入った。途中までの怪談仕立てがちょいと読ませる。