●『海のオベリスト』 Ｃ・Ｄ・キング 原書房 読了。
まず、ちょっと残念なポイントをふたつ。数が合わない弾丸だとか死因の扱いだとか、せっかく魅力的な死の謎を用意しておきながら、（伏字）なんていう真相はやや残念。心理学者連が提示する仮の真相がどうも杜撰で荒っぽく、せっかく多重解決の構成なのに、ミステリの真相としての面白味に欠けるところがある。すぐにひっくり返される仮説だから、作者も力が入っていないのだろうか。
踏んだり蹴ったりの船長が、お気の毒ではあるがじわじわと可笑しい。自分の船で暴力行為があったにもかかわらず、一向に解決の兆しが見えずに苦悩する船長。探偵活動の素人である心理学者が、それぞれ自前の学説に基づいてもっともらしいことを言っても事件解明にはつながらず、毎回期待しては落胆する船長。彼の苦悩はいよいよ深まる。上の段落で書いた仮真相の物足りなさは、もしかして作者の力点がこのような状況そのものを書くことにあったからなのかもしれない。
全体としては面白く読んだ。多重解決の趣向そのものは楽しいのだ。また、手掛かり索引だなんて私の好物ど真ん中である。
