累風庵閑日録

本と日常の徒然

『こびとの呪』 東京創元社

●火曜日に、ポケミスの『幻想と怪奇2』を手に取ってぱらぱらとページをめくり、驚愕した(誇張表現)。なんと印刷エラーがあって、エドワード・ルカス・ホワイト「ルクンド」とアンブローズ・ビアース「マクスンの人形」とに、それぞれ白紙のページがあるではないか。「マクスン」の方は以前、ハヤカワ文庫の『フランケンシュタインのライヴァルたち』で読んだから割愛してもかまわないのだが、「ルクンド」をどうするか。

 しょうがないのでこの本を読むのは後回しにし、たまたま手元にあった東京創元社世界恐怖小説全集第七巻『こびとの呪』を先に読むことにした。表題作が「ルクンド」の訳題違いである。

●『こびとの呪』 東京創元社 読了。

 収録作中のベストはイーディス・ファートン「あとになって」であった。リング屋敷に出る幽霊は、その場ではけっして幽霊だと気付かれることはない。誰もがあとになって、ああ、あれは幽霊だったのかと気付くのだそうだ。読んでいると、こいつが幽霊なのだなということはだいたい想像がつく。だが当然、登場人物は気付かない。あとになってあいつが幽霊だったのだと分かった瞬間、かの人物に押し寄せる恐怖と驚愕。幽霊だと気付かなかったことへの悔恨。因縁をはらんだ過去の物語が、今もなお生きていることがまざまざと思い知らされる。終盤の、津波のような感情の揺れが読みどころ。

 他に気に入ったのは以下のようなところ。犯罪サスペンスの味が濃いW・W・ジェーコブス「邪魔をした幽霊」、秀逸な(伏字)小説フィッツジェイムズ・オブライアン「あれは何だったか?」、戦前日本の変格探偵小説を思わせるマッド・サイエンティストものS・ローマ―「チェリアピン」、グロテスクな不気味さでは収録作中一番の表題作E・L・ホワイト「こびとの呪」。