累風庵閑日録

本と日常の徒然

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第三十九回「伯父ベルナツク」

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十九回として、第八巻から中編「伯父ベルナツク」を読んだ。フランス革命を逃れて英国に渡った亡命貴族の跡取り息子、ルイ・ド・ラヴァルが主人公。本来彼が相続すべき城と所領とを、革命の暴動に乗じて簒奪したのが、題名の人物ベルナックである。ベルナックは自らの一族が法的にも正当な所有者となるように、自分の娘とラヴァルとを結婚させようと目論む。ところがラヴァルには既に将来を誓い合った娘がいるのであった。

 十九世紀初頭のフランスを舞台に、財産を巡る陰謀と恋の駆け引きとが語られる。……と思っていたら、中身はかなり違っていた。かなりのページを割いて、ナポレオンの人となりを丹念に描いてゆくのである。どこまで史実を反映しているのか分からないが、ナポレオンってば大変な人物だったようだ。一日十八時間働き、部下にも同様の働きを要求する。軍事政治経済と、フランスに関して知らないことはなく、どんな些細なことでも自分自身で処理しないと気が済まない。気分がころころ変わり、不機嫌になると大勢の面前で部下を叱責する。そんな彼が、部下には大変恐れられていると同時に大変敬愛されているのだという。なんともはや。

 本筋になるだろうと想像していた展開は、ホンの付け足し程度に語られるだけであった。これってもしかして、ドイルがナポレオンを描くことに夢中になってしまったのではないのか。結局のところ、ナポレオンの異様な造形が読みどころである。そしてなんとこの作品には、かの勇将ジェラール、本作の表記ではエチアヌ・ゼラール大尉が登場してちょっとした活躍をする。

●取り寄せを依頼していた本を受け取ってきた。
八角関係』 覆面冠者 論創ノベルス