累風庵閑日録

本と日常の徒然

『夫と妻』 W・コリンズ 臨川書店

●『夫と妻』 W・コリンズ 臨川書店 読了。

 幼少期から大親友だったふたりの女性。だが大人になった今、ふたりの境遇は大きく異なっていた。最愛の人アーノルドとの結婚を間近に控え、幸福の絶頂にあるブランチ。ちょっとした気の迷いから卑劣な男ジェフリーを愛したあげく、捨て去られてどん底にいるアン。ところが、アンからの追求を逃れようとするジェフリーの利己的な策略によって、アーノルドとアンとが法的に夫婦となってしまう。当人同士には互いに結婚する意思が全くないにもかかわらず。この展開を支えるのが、当時のスコットランドにおける奇妙な婚姻法であった。この法律を中心にしたすったもんだが、作品の主題である。

 感想としては、去年読んだ同じ作者の「アーマデイル」と、ほとんど同じである。当時の日記をちょいとアレンジして、この作品の感想とする。

 全ての登場人物もあらゆる要素も、作者が物語を転がすために存在する。彼らは作者に都合のいいように考え、都合のいいように動く。都合のいいように勘違いし、都合のいいようにすれ違う。都合のいい瞬間に人は死に、都合のいいタイミングで病気が発症する。偶然に偶然を積み重ねその上から全体を偶然で覆う作者の筆先によって、もつれにもつれた人間関係の泥沼が描かれる。事態は深刻なのだが、あまりにも偶然が過ぎて展開が作り物めいて、時折コメディめいた可笑しさを感じるほどだ。

 展開は起伏に富み先が読めなくてすこぶる面白いのだが、まあなんと長いことよ。上下巻二段組みでとにかく長い。いい加減終わらせてくれと思ってしまった。会話のテンポがまどろっこしいのも、どうもしんどい。登場人物が感情過多で、回りくどい台詞でもって愛だの友情だの名誉だの誓いだのと仰々しい内容をまくしたてる。また、長いと感じた一因は多分私の加齢のせいもあるだろう。根気や集中力が減退し、フィクションを受け止める精神の容量が減ってきている。長大な物語がしんどくなっているのだ。いやはやどうも。

●書店に寄って本を買う。
『パノラマ島綺譚』 江戸川乱歩 光文社文庫
『矢柄頓兵衛戦場噺』 横溝正史 春陽文庫