累風庵閑日録

本と日常の徒然

『アーマデイル』 W・コリンズ 臨川書店

●『アーマデイル』 W・コリンズ 臨川書店 読了。

 コリンズ傑作選の、第六巻から第八巻まで三巻に渡る長編である。主人公は同姓同名のふたりのアラン・アーマデイル。その昔アランAの父親がアランBの父親を殺したことは、アランAしか知らない。Aは固い友情と呪われた過去とによって分かち難く結ばれたBとの関係について、思い悩むのであった。

 アランBが田舎の屋敷と広大な地所とを相続すると、狡猾な悪女グウィルト嬢が近づいてくる。彼女はアラン達の父親の殺人事件に間接的にかかわっており、今またアランBの財産を横領すべく暗躍し始める。

 登場人物を含め全ての要素は物語を転がすためにある。彼らはストーリー上都合のいいように考え、都合のいいように動く。都合のいいように勘違いし、都合のいいようにすれ違う。ボートは都合のいいように流され、天候すら都合のいいように変わる。偶然に偶然を積み重ねその上から全体を偶然で覆う作者の筆先によって、人々の運命はちょっと予想できない方向へと運ばれてゆく。

 どうも惜しいことである。あまりにも悠々としたテンポが、ちとしんどい。登場人物が感情過多で、回りくどい台詞で愛だの友情だの名誉だの誓いだのと仰々しい内容をまくしたてる。読みながらうんざりすることもあった。十九世紀の冗長な文章ではなく現代風に簡潔に書かれていたら、文字通り巻措く能わざる傑作になったかもしれない。そのままでもめったやたらに面白いのだが、それだけに惜しいと思う。