累風庵閑日録

本と日常の徒然

『毒薬の小壜』 C・アームストロング ハヤカワ文庫

●『毒薬の小壜』 C・アームストロング ハヤカワ文庫 読了。

 前半は、主人公の生い立ちと人となりとが丁寧に描かれる。並行して、彼が様々なことをぐるぐる考える様子も描かれる。後半になってようやく物語が動きだしてからは、前半で扱われた種々のテーマが登場人物達の間で議論されるようになる。彼らは考え、自らの想いを語り、話し合うのだ。運命について、生き方について、助け合いについて。善意について、感謝について、潜在意識について。そういった抽象的な語りがかなりの部分を占め、申し訳ないがまどろっこしく感じてしまった。

 だが、読了した結果は概ね満足である。毒薬の小壜の所在というメインの題材が、終盤のサスペンスを盛り上げて上出来。上記の議論の一部が結末につながる展開も、なるほどと思う。今よりも感受性が豊かであった四十年前に読んでいれば、もっと感動したかもしれない。