累風庵閑日録

本と日常の徒然

『古書ミステリー倶楽部III』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●『古書ミステリー倶楽部III』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。

 同一テーマのアンソロジーも三冊目ともなると、作品選択に苦労の跡がうかがえる。全ての文学はミステリである、と言ったのは阿刀田高だったか誰だったか記憶が曖昧だけれども、そういう意味の超広義ミステリがちょいちょい収録されていて微笑ましい。また、小沼丹バルセロナの書盗」は以前のシリーズ『ペン先の殺意』に収録されているにもかかわらず再録されていて、そういった不思議な編集からも苦労が偲ばれる。

 宮部みゆき「のっぽのドロレス」は、本好きの登場人物が忙しい日常を送りながらも読書の習慣を捨てず、寸暇を惜しんでたとえ十分であっても本を読んで日々の楽しみとしている姿に、泣けてくる。また、作品の内容とは別にポケミス『のっぽのドロレス』にちょっと興味を持ってしまった。

 法月綸太郎「緑の扉は危険」は再読。短編小説はいつも、読んだ瞬間にほとんど忘れてしまう。けれどもこの作品のネタはシンプルで鮮やかで、例外的にしっかり覚えていた。

 江戸川乱歩「D坂の殺人事件〔草稿版〕」は、読めるということそれ自体に意味のある珍品。これがもし横溝作品だったら熟読玩味して決定稿とも比較検証するのだが、乱歩に関してはそれほどの熱意はない。

●某図書館から連絡。コピー代を振り込んだ旨こちらからメールを出しておいたのに対する返信である。入金の確認には八日程度かかります、だそうで。以前の書面には「かかることもある」と書いてあったけれども、「かかります」になっている。あららら。となると、入金確認が今週末、コピー作業が週明け、郵送されて手元に届くのが来週後半になるということか。

 依頼から請求書到着までで一週間、代金納付からその確認までで一週間、コピー実施から郵送、到着までで一週間という塩梅のようで。場所は実際に行ける距離なので、自分で出かけて自分でコピーを取ったら数時間で全て完了するのだ。今回はコピーの実作業が面倒くさくてお願いしたので、その肩代わりの代償としてたっぷり時間がかかるというのは、まあやむを得ないだろう。

来週か再来週

●某図書館からようやく、コピー代金の納入通知書が届いた。直ちに手配をしたが、今日は土曜日である。実際に入金されるのは週明けになるだろう。その後コピー作業を行って郵送となると、ブツを入手できるのは早くても来週半ばになる。同封の書面には、入金確認には八日程度かかることもあると書いてあるから、再来週にまでずれ込む可能性も十分にあるけれども。

『岡村雄輔探偵小説選I』 論創社

●『岡村雄輔探偵小説選I』 論創社 読了。

 収録作中のベストは「盲目が来りて笛を吹く」であった。ただし百点満点ではなくて、(伏字)過ぎるという部分に不満はある。犯人の計画の、根本的な部分でも引っかかりを感じる。が、それ以外は伏線沢山だし推理の過程もそれなりに書かれてあるしで、面白く読めた。犯人は証跡を残していないが証跡を消した跡が残っている、という趣向にもちょいと感心。

 中編「加里岬の踊子」も、満足度は高い。伏線もロジックもちゃんとしていて、こういうのだよ読みたいのは、と思う。まとまったページ数を確保して、捜査陣が様々な情報を得てゆく過程をじっくり書いてあるのも好み。解決部分が、(伏字)するパターンなのがちと残念だけれども。

『鉄仮面』 ボアゴベ 講談社文芸文庫

●『鉄仮面』 ボアゴベ 講談社文芸文庫 読了。

 面白い。面白いぞボアゴベ。すっかり見直してしてしまった。冗長で退屈だろうとの事前の予想を大きくはずれて、いやもう、面白いのなんの。ボアゴベをミステリ作家の枠で捉えるのは間違っているのかもしれない。『鉄仮面』ってば、波瀾万丈の歴史冒険小説なのであった。さすがに台詞回しやなんか大仰だけども。

 時は十八世紀所はフランス。国王ルイ十四世に対する謀反を企てる、青年貴族の物語である。と、思いきや、途中から全然変わってしまう。物語の大筋が見えてくるのが三百ページを過ぎてから。なんと、並の小説一冊分が序盤なのである。かといって、展開がのろくさいわけではない。その筆の運びは、悠々としてダイナミック。豪快にして緻密。

 何しろ長い作品だから、一本調子ではない。時にテーマと主人公とを変えながら、物語は一つの主軸に沿いつ離れつ、大きく動いてゆく。その主軸とは、仮面の男は誰か? という謎である。その謎の、付帯条件がよくできていると思う。フランス史の素養がない私のような人間は、歴史上の実在人物××が仮面の男だった! と名指しされてもピンとこない。ところがこの作品では、そんな人間でもちゃんと興味を持てるような謎に仕立ててあるのだ。

 男の正体如何によって大きく運命が変わる二人の人物を配してあるのも、上手いと思う。恋に復讐に、よく言えば信念に、悪く言えば妄執に取りつかれた、二人の女。互いに相反する立場にある彼女達の切実な想いが、男の正体への興味を一層かき立てる。

 彼女達をとりまく、敵と味方と。陰謀と裏切りと。嘘と真と。様々に交錯する人も、そんな人々の思惑も、絶対に知られてはならない秘密も、哀しい過去の記憶も、全ては決して止まることのない時代のうねりに押し流されてゆく。

●ボアゴベ『鉄仮面』を読み終えてから、旺文社文庫黒岩涙香『鉄仮面』を何気なく手に取って、くらくらした。ほとんど改行がなく、ページ一面が活字でびっしり埋まっているではないか。しかも、黒々としたページに書かれてあるのは明治時代の文章である。これは読むのがしんどそう。

今月の総括

●今月の総括。
買った本:十二冊
読んだ本:十冊
 今年になって、古本を六冊買った。そのうち四冊が今月の購入である。そのせいで購入総数が増えてしまった。読む方は、終盤にボアゴベなんて大物に手を出してしまったので、十一冊は読めなかった。

臆病一番首

●書店に出かけて本を買う。
『臆病一番首』 山本周五郎 新潮文庫
 新発見の現代ミステリが二編収録されているというのをツイッターで知ったので、早速購入。ツイッターは有益な情報が得られて、つくづくありがたいことである。

●お願いしていた本が届いた。
『十二の奇妙な物語』 サッパー 論創社
『サーカス・クイーンの死』 A・アボット 論創社

「片耳の男」

●某図書館から、昭和二十五年十二月に『少女サロン』に掲載された、横溝正史「片耳の男」のコピーが届いた。初出は昭和十四年九月の『少女の友』で、原題は「七人の天女」である。その後、昭和二十九年に偕成社の『青髪鬼』に「片耳の男」の題で、昭和三十年にポプラ社の『まぼろし曲馬団』に「七人の天女」の題で、それぞれ収録されている。また、角川文庫およびソノラマ文庫では『迷宮の扉』に収録されている。

 ここで問題なのは、ヒロイン鮎沢由美子の兄の研究対象が、年代によって異なっていることである。まず初出では「飛行機に関係がある」、『青髪鬼』版では明記されず、『まぼろし曲馬団』版では「ジェット・エンジンに関係がある」となっている。三種類のバージョンがあるわけだ。ここまでの話は、以前の日記にも書いたことがある。

 今回コピーを入手した目的は、おそらく戦後初の活字化と思われる『少女サロン』版では研究対象はどうなっているのか、確認することにある。結論として、対象は明記されていなかった。これほどまでに「だからどうした?」という案件もそうはないだろうが、抱えていた宿題をやっと終えた感じで、気分がいい。

●先日コピー依頼をした別の図書館からリアクションがあった。こちらの依頼内容をちゃんとした書式に直したので、内容を確認せよと仰る。間違いない旨回答した。今後、先方からコピー代金納付書のようなものが送られてきて、入金確認後にコピー作業が行われる段取りになっている。実際にブツを手にできるのは来週末くらいになるだろうか。

名探偵カッレ

●書店に寄って本を買う。
『見知らぬ者の墓』 M・ミラー 創元推理文庫
『生まれながらの犠牲者』 H・ウォー 創元推理文庫
『名探偵カッレ 城跡の謎』 A・リンドグレーン 岩波書店

●ボアゴベ『鉄仮面』が、予想を大きく上回って面白い。ページが順調に進んで、明日には上巻を読了できそう。想定通りのペースである。

当分書けない

●今日から、講談社文芸文庫のボアゴベ『鉄仮面』を読み始めた。上下巻でトータル千二百ページを超える大部の代物である。私の読書ペースだと、順調にいっても一週間はかかるだろう。したがって、当分の間読了日記は書けないことになる。あしからず。

●先日コピー代を郵送した図書館から、資料送付の連絡があった。数日のうちには入手できるであろう。ありがたいことである。これでどうも、コピーしたい欲が盛り上がってしまった。別の図書館にもコピー依頼をかける。

『魔女の不在証明』 E・フェラーズ 論創社

●『魔女の不在証明』 E・フェラーズ 論創社 読了。

 いわゆるロマンティックサスペンス風味の作品。主人公が嘘をつき情報を隠すことで物語を維持する手法は、私の好みから遠く遠く隔たっている。途中からもうすっかり醒めてしまって、犯人も真相も、割とどうでもよくなった。最後まで目を通すことだけが目的になってしまった。そつなく書かれてあるし、最後に明かされる伏線がひとつの読み所だという気もするが、結論としてただ読んだだけである。