累風庵閑日録

本と日常の徒然

鳥追い人形

●鷺十郎捕物帳第一話の、改稿版人形佐七バージョン「鳥追い人形」を読む。春陽文庫の『ほおずき大尽』に収録されている。

 物語の展開も主人公以外の人物配置も、基本的に鷺十郎版と同じ。名前を置き換えただけに近い状態である。違いは、女師匠に惚れられるのが子分ではなく佐七であること。これはまあ当然であろう。その改変から引っ張って、お粂の嫉妬でひと悶着あるのもお決まりである。茂平次の登場場面に比べて、辰と豆六の場面が増えている。これもよくある改変である。

 直接内容に関わる改変では、死体の状態についての記述が追加されているおかげで、メインのネタがあからさまになってしまっている。事件の起きるタイミングが変わって、ある娘の失踪から事件発生まで、鷺十郎版は数日、佐七版は半月となっている。話の流れに影響はないが、佐七版では永代橋墜落事件から十年ほどのちの出来事になっており、時代設定が大きく変わっている。

●この作品は、どうやら別バージョンはなさそうだ。というのは、おそらく最終バージョンと思われる春陽文庫版が、鷺十郎版をほぼなぞった内容になっているので。それでも念のため、金鈴社『浮世絵師』に収録されている「鳥追人形」をざっと流し読みしてみる。結論として、概ね春陽文庫版と同じであった。わずかな違いは、事件発生のタイミングが娘の失踪からひと月後になっているのと、死体の状態が春陽版は全裸、金鈴社版は腰のもの一枚というくらいである。