累風庵閑日録

本と日常の徒然

南京人形

●「横溝正史の「不知火捕物双紙」をちゃんと読む」プロジェクト。今回は第六話「南京人形」を読む。

 出版芸術社の『奇傑左一平』に収録されていて手軽に読めるので、あらすじは省略。このネタならばこの結末になるだろう。極めて分かりやすい話である。ページ数が足りない故か、とある人物の顛末があれっと思うほどあっさり処理されている。

●続いて改稿版佐七バージョン「捕物三つ巴」を読む。春陽文庫の『女刺青師』に収録されている。

 これがなかなか感心する出来栄えで。ストーリーの骨格を保ったまま、登場人物の基本設定やそれぞれが果たす役割に修正が加えられている。そこに佐七お粂の濃厚な痴話喧嘩を追加して、いかにもな佐七シリーズに変貌させている手際がお見事。ある場面の意味が丸ごと変更されているのが目を引く。題名にある三つ巴の趣向を生かすためにこうしたのだと思うが、少々強引ではある。

●さらにお次は、佐七版のバリエーション確認である。昭和二十六年に同光社から出た『新編人形佐七捕物帖』に収録されているものを、ざっと流し読み。基本的には春陽文庫版と同じだが、描写があっさりしているし、事件の展開に関わる情報で文庫版にあったものが一部欠けている。

 つまり、不知火版の構成と人物設定とを修正して佐七化したのが同光社版、そこから描写を丁寧に膨らませ、事件に関わる情報を補完したのが文庫版、ということになる。