●『殺人者登場』 Ｎ・マーシュ 新潮文庫 読了。
少なくとも序盤は、誰もが犯行が可能でその手段も明白に思える。こんな設定で、いったいどうやってミステリの意外性を演出するのか。で、結末を読んでみると、なるほど、ふふふん。
それにしても、現場の見取り図が欲しい。文字で読んだだけでは、建物の構造も関係者それぞれの行動もはっきりイメージできないので、だんだん気持ちが醒めてくる。全体の状況が曖昧だから、解明部分を読んでもはたと膝を打つような納得感に乏しい。よく分からないけど、それが根拠だと作者が書いているのなら根拠なんでしょ、と思うだけである。
原文がそうなのか訳がうっかりさんなのか、伏線が伏線として機能しておらず、舌足らずな個所がある。それに結局、（伏字）の意味ってどこかに書いてあったっけ？ 気持ちが醒めると読み方がついついいい加減になってしまうので、読み落としたのかもしれない。
そんなこんなで消化不良の感があり、あまり感銘を受けなかった。それどころか、ちゃんと読めていない気がしてどうもすっきりしない。論創海外あたりで、新訳を出してくれないものか。別の訳で再読すれば、理解も深まるだろう。
