累風庵閑日録

本と日常の徒然

『闇が迫る マクベス殺人事件』 N・マーシュ 論創社

●『闇が迫る マクベス殺人事件』 N・マーシュ 論創社 読了。

 前半はマクベスのリハーサルが進行する様を描き、開演が近づくにしたがって劇が成功するかどうかの緊張感が高まってゆく演劇小説である。これはこれでつまらなくはないのだが、なかなか事件が起きないので正直なところ飽きてきた。後半、グロテスクな事件が起きた瞬間がらりと空気が変わってミステリになる。しかもその事件は実行が困難な際どさがあり、結局のところこれしかないという真相のシンプルさがあり、まずまずの読み応えであった。

 ただ、全面的に満足したわけではない。動機が(伏字)というのが、どうにも釈然としない。その点については巻末解説において懇切丁寧に論じてあって、なるほど納得のいく読み解きである。そう読んだ方が読書の喜びを得られるという主張もまことにごもっとも。論評としては同意するけれども、好みとしてはやはりどうしても高い点数を差し上げることはできない。巻末解説でも言及されている、登場人物がある要素に気付くきっかけについても、どうも残念なところである。

 この作品はマーシュの遺作である。活動期間が長かったマーシュが最終的にたどり着いた、悠々とした書きっぷりを愛でる作品なのかもしれない。