累風庵閑日録

本と日常の徒然

『デイヴィッドスン事件』 J・ロード 論創社

●『デイヴィッドスン事件』 J・ロード 論創社 読了。

 犯人の真の目的が(伏字)だということは、割と早い段階で想像できた。それに気づくと、全体のおおまかな構造が浮かんでくる。したがって興味の焦点は真相の意外性にではなく、具体的な犯行の段取りにあった。

 被害者が、殺されるまでの過程でところどころ奇妙なふるまいをする。あるいは、物語中の位置づけが分からない奇妙な出来事が起きる。こういった記述にいかにも何か仕掛けがありそうでいながら、実際の意味が分からない。どういう形で真相に結びつくのか。

 結末に至って犯罪計画の全貌が判明すると、よく練り込まれているミステリを読んだ満足感がある。ほほう、あの手を使ったか、というのがいかにもミステリらしくて嬉しい。伏線については、特に(伏字)の扱いが面白い。あの描写にはそんな意味があったか。