累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ビーストン傑作集』 L・J・ビーストン 創土社

●『ビーストン傑作集』 L・J・ビーストン 創土社 読了。

 結末の意外性で勝負する作風である。途中に伏線がなく、唐突に卓袱台をひっくり返すような作品ばかりなので、ロジックの面白さには乏しい。内容どころか舞台背景の雰囲気までも似たような話が多く、続けて読んでいるとだんだん飽きてくる。扱われている題材をキーワードで表すと、屋敷、クラブ、夜、雪、雨、宝石、重要書類、泥棒、前科者、窃盗、恐喝、等。これらの組み合わせが繰り返し繰り返し使われる。かつての日本での読まれ方のように、雑誌に載ったやつを月に一編くらい、隙間時間に気分転換として読むのには適しているであろう。

 結末が上手くハマって気に入った作品を題名だけ挙げておくと、「マイナスの夜光珠」、「過去の影」、「人間豹」、「約束の刻限」、「廃屋の一夜」、「マーレイ卿の客」といったところ。収録作中のベストは「幽霊階段」である。オチ一発ではなくてちゃんとした裏の物語が用意されているし、怪談風の展開も面白い。

 ところでこの本には、横溝正史が手掛けた訳が三編も収録されている。また「マイナスの夜光珠」は、正史の某長編の元ネタであるとの説があり、読んでみるとなるほどそれも頷ける。つまり、「横溝文献」としても興味深い本なのである。