累風庵閑日録

本と日常の徒然

『大河内常平探偵小説選II』 論創社

●『大河内常平探偵小説選II』 論創社 読了。

 戦争と貧困と病苦と麻薬と。陰か陽かで言えば間違いなく陰の作風である。湿っぽさがしんどくて一気に通読出来ず、間に一日別の本を挟んで、読了まで四日もかかってしまった。

 中編「松葉杖の音」は、結末を読むと途中でちょいちょい伏線が張られていたことが分かる。だがせっかくの伏線なのに、そこから推理を巡らせてゆく流れがどうも荒っぽいのが残念。美点としては殺人トリックが面白いのと、主人公格の田辺勝蔵がなかなか読ませる造形をしている。人物造形の面白さと言えば「廃墟」の夫婦者の処世術や、「クレイ少佐の死」の奇矯な少佐も記憶に残る。

 他に気に入った作品を挙げておくと、「坩堝」は視点が次々に変わり、それに伴って事件の様相も変わってゆく構成が上々。「相剋」は、人物設定と情報の配置とが上手い。「囮」は、物事の意外なつながりが秀逸。「風邪薬」も、ありがちではあるが物事が関連することの面白さがある。「夕顔の繁る盆地に」や「蝕まれた巷」は、収録作中では数少ないトリック趣味が盛り込まれて私好み。

 突出したベストは「暫日の命」であった。謎の設定もその真相もちょっとしたもの。だがそれよりも構成が上出来な秀作。

●お願いしていたカーの同人誌が届いた。
『Murder,She Drew Vol.2』
 カーの歴史ミステリがテーマである。素晴らしい。だが私は、この本を手に取るには少々勉強不足である。歴史もの現代ものを問わず未読作品はあるし、既読作品も内容をすっかり忘れている。