累風庵閑日録

本と日常の徒然

『相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫

●『相良一平捕物帳』 森達二郎 春陽文庫 読了。

 事前情報一切なしに手に取ったので、この作家がどういう人物なのかは知らん。読んだ感じでは、なかなか手慣れていてそつのない書きっぷりである。刊行は昭和四十八年。

 主人公相良一平はきりりとした男前の同心で、目明かしの太鼓松とその手下合点庄次とが子分格。馴染みの川魚料理屋菊水の、看板娘お利江がすっかりホの字にレの字という案配で。この娘がただのお飾りではなく、怪しい出来事を目撃してストーリーが動き出すきっかけとなったり、さらには事件解決に一役買ったりもする。

 形式は短編集だが完全読み切りではくて、各作品毎のつながりが意外なほど強い。ちょいちょい前回までのエピソードに言及され、全体が特定の一年間の出来事になっている。前作の登場人物が再登板して準レギュラーになるなんてこともある。そういったメンバーがじわじわ増えて、やがては相良ファミリーとでもいうべき様相を呈してくる。

 起きる事件は特に捻りもなくミステリらしい趣向もなく。それどころか後半になるとヒーロー小説の色が濃くなって、遠山の金さんか暴れん坊将軍かというノリになってくる。特に異色なのが第四話「切ったのはだれ」で、相良がなんと(伏せ字)まがいの活動をしてのける。これにはちと驚いた。