累風庵閑日録

本と日常の徒然

『子不語の夢』 浜田雄介編 皓星社

●『子不語の夢』 浜田雄介編 皓星社 読了。

 副題は「江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集」である。マニアさんや研究者にとっては貴重な情報の宝庫なのだろう。私は上辺をなぞるだけの乱歩ファンなので、するすると読み進めた。それでも眼をページの上にただ滑らしただけに終わらなかったのは、脚注のおかげである。巻末解説に曰く「行き過ぎと思われるであろうほどの解釈や推定も敢えて避けず」という脚注は眼光紙背に徹する勢いで詳細を極め、本文の読み解き方を多く教えられた。脚注の助けによって、大量の往復書簡から乱歩と不木との人間性が浮かび上がってくる。

 時が経てば人は変わる。人が変われば、相互の関係も自ずと変わってくる。辞を低くして自分の探偵作家としての将来について意見を乞う乱歩と、探偵小説を普及発展させる立役者として乱歩を盛り立ててゆこうとする不木。という当初の関係が、やがては会いたい会いたいと繰り返す不木と冷淡な乱歩、という関係に変わってゆくのは切ないものがある。

 もう一つ読み応えがあったのは、巻末の論考、小松史生子「乱歩、<通俗大作>へ賭けた夢」であった。手紙の記述から、乱歩がかなり早い段階から通俗長編へ目を向けていたことを指摘している。興味深いことである。

 個人的な宿題として、横溝関連のネタがひとつある。横溝正史が「探偵趣味の会」の会合で発表した作品についてだ。「鏡」という統一テーマで会員がそれぞれ書いた作品を持ち寄ったそうで。正史の内容は「鏡にがい骨の笑顔が映る―Y博士の恐怖を描いたもの」という。これって後に一般公開された小説なのだろうか。横溝作品の内容を覚えている人ならばすぐにアレだと指摘できるのかもしれない。私は読んだ傍から忘れてしまうので、いかんともしがたく。いつか折を見て、該当年代の横溝作品を復習してみようと思う。