累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ABC殺人事件』 A・クリスティー 創元推理文庫

●『ABC殺人事件』 A・クリスティー 創元推理文庫 読了。

 大人向けの訳で読んだのは四年前が初めて。今回必要があって、メモを取りながら再読した。感想は基本的に前回と同じなので、当時のブログをベースにして修正を加えたものを今回の感想とする。

 関係者が無意識のうちに取捨選択して話さなかった些細な事柄にこそ重要な手掛かりが潜んでいる、というアプローチにはわくわくするものがある。なにしろこのアプローチの結果としての、スリリングな場面を覚えているのだ。読み進めた先の盛り上がりが約束されているのである。その他全般的に、真相を知って読むと様々な記述の意味がその場で分かるので、初読とは違う面白さがある。また、予告の手紙がポアロに宛てられた理由なんてネタも嬉しい。

 終盤の展開は、前回ちょっと冷静になってしまった。ところが今回、クリスティーが読者の鼻づらを取って引きずり回す手際はいかに、という視点で読むとなかなか興味い。章の終わりの記述と、そこから次の章が始まる流れにちょいと感心する。