累風庵閑日録

本と日常の徒然

『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 中島河太郎編 立風書房

●『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 中島河太郎編 立風書房 読了。

 暗く、ねちこく、湿っぽい作品はどうも好みではない。コメントを付けたい作品は多くはない。江戸川乱歩「陰獣」はもう何度も読んでいるが、やはりつくづく感心する。昭和三年に、こんなきっちりした構成に猟奇趣味も併せ持った作品がよくも書かれたものだ。横溝正史「孔雀屏風」は、多少はひいき目もあるけれどもやはり面白い。百数十年の時を越える情念と、次々と畳みかける謎の数々、ってなもんで。

 生々しい迫力の犯罪小説、大下宇陀児「義眼」も気に入った。しっとりとした幽霊譚の名作、橘外男「逗子物語」も再読に耐える。甲賀三郎「焦げた聖書」は、気に入った作品とはちとニュアンスが違うが、終盤の歪とも思えるやけくそな疾走感が異様な迫力である。ページ数に対して作者が盛り込みたい情報量が多すぎるようだ。

●九月九日に開催された横溝正史読書会の模様を、同日の日付で公開した。