累風庵閑日録

本と日常の徒然

『殺す者と殺される者』 H・マクロイ 創元推理文庫

●『殺す者と殺される者』 H・マクロイ 創元推理文庫 読了。

 中盤過ぎまでは、言っちゃあ悪いがありきたりのサスペンスである。急な予定変更で早く帰宅した夫を、不審者と間違えて射殺した妻。だが、彼女は本当に屋敷に侵入してきた人物を夫だと気付かなかったのだろうか。隠された殺意がありはしないか。

 ところがここで、物語は急展開を見せる。車のアクセルをベタ踏みするように、奇天烈な方向にフルスピードでカッ飛んで行くのである。先の読めない急流に翻弄されているうちに、最終的に立ち上がってくるのは(伏字)テーマであり、(伏字)ネタである。長らく稀覯本であったこの作品が、改訳新刊になって手軽に読めるようになってよかったと思う。