累風庵閑日録

本と日常の徒然

『毒婦の娘』 W・コリンズ 臨川書店

●『毒婦の娘』 W・コリンズ 臨川書店 読了。

 題名では娘に焦点が当たっているが、実際の主人公は作中で毒婦と称される母親フォンテーヌ夫人の方である。その造形は、娘の幸せのためなら手段を選ばずいかなる犠牲も厭わない女丈夫として描かれる。狡猾な計略で目の前の困難に対処する彼女の前に、作者コリンズは次から次へと障害を持ちだしてくる。

 物語は力づくの偶然を積み重ねて強引に運ばれてゆくのだが、終盤の(伏字)なんてのはいくらなんでも都合がよすぎる。だが、これがコリンズ、と思って受け入れるしかないだろう。

 フォンテーヌ夫人がひたすら娘の幸せのために行動しているのが、ちょっと座りの悪さを感じてしまった。これが復讐や金銭欲が動機だったり、目的が分からない不気味さがあったりすると、いい感じの悪女系サスペンスになりそうである。

 ところでこれで、臨川書店ウィルキー・コリンズ傑作選全十二巻を読み終えた。ちょっとした達成感がある。

●書店に寄って本を買う。
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』 川出正樹 東京創元社
 副題に、「戦後翻訳ミステリ叢書探訪」としてある。