累風庵閑日録

本と日常の徒然

『迷路荘の怪人』 横溝正史 東京文藝社

●『迷路荘の怪人』 横溝正史 東京文藝社 読了。

 中編が二編収録されている。

「迷路荘の怪人」
 短編版の三年後に、書き下ろしとして単行本に収録された。改稿によって、まとまった分量の警察による尋問シーンが追加されている。そのおかげで、関係者の証言を積み重ねて事件当時の状況がじわじわと明らかになってゆく展開になり、面白味がぐっと増している。真相解明の場面も大幅に書き込みが増え、関係者の行動がずいぶん明確になっている。真相そのものもこっちの方が、キーパーソンの心情がよく表れていて凄味が増している。その他全般的に描写が細かくなり、展開が丁寧になっている。

 犯人探しミステリは、やはりある程度ページ数があった方が面白い。中編化のおかげで完成度が高まっている。ただ、これでもまだ語り足りない部分が残り、真相の多くは金田一耕助の推測でしかない。真相が推測で語られるってのは横溝ミステリにありがちではあるのだが。また、短編版で感じた不満点が中編版でも解消されていない。行間を読む読み方をすれば解消できなくはないけれども。あるいは読み手の補間が必要である。

「トランプ台上の首」
 首のない死体ならお決まりの真相があるが、この事件は逆に首しかない殺人である。ところが(伏字)。飯田屋の取り調べの場面が、ここだけ艶笑落語みたいで可笑しい。ひとつ気になった点がある。ある小道具の扱いに引っ掛かる。メタ的な視点ならば、事件解決に向けて話を転がすきっかけとしての意味がある。だが、犯人の意図がよく分からない。

●明日からは長編版「迷路荘の惨劇」を読む。

●書店に寄って本を買う。
エステルハージ博士の事件簿』 A・デイヴィッドスン 河出文庫