累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ロンリーハート・4122』 C・ワトソン 論創社

●『ロンリーハート・4122』 C・ワトソン 論創社 読了。

 これは上出来。結婚相談所を巡るふたつの筋道が並行して語られる。そのうち片方では、女性二人の行方不明事件にシリーズキャラクターのパーブライト警部が取り組む。やがて結婚詐欺師に殺された死体が発見され……といういわばありきたりのミステリを予想していたら、実際は全然違った。

 途中からの展開が意外だし、真相もお見事。全体に漂うユーモアも好ましい。読んでよかった。この作者の、創元推理文庫の既訳を読むのが楽しみになってきた。

●注文していた本が届いた。
『三味線鯉登』 永瀬三吾 捕物出版

『番町皿屋敷』 四代目旭堂南陵・堤邦彦編 国書刊行会

●『番町皿屋敷』 四代目旭堂南陵・堤邦彦編 国書刊行会 読了。

 副題に「よみがえる講談の世界」とある。明治時代に刊行された講談速記本の翻刻だそうで。特別付録として、南陵師匠が語る皿屋敷の口演CDが付いている。

 皿屋敷の物語をちゃんと読むのは初めてだ。こんなにいろいろプレストーリーがあるとは知らなかった。吉田屋敷の千姫御乱行から語り始め、更地になった吉田御殿址を拝領した青山主膳の苛烈な行跡を語り、首切り役人平内兵衛のエピソードに続く。

 全十三席のうち半分近くの第六席、大盗賊向坂甚内のエピソードに移行してからようやく、キーパーソンのお菊が物語に登場する。ただし、甚内の娘お菊はこの時まだ六歳。本格的に物語に絡むのは、まだまだ先のことなのであった。

 上記のような構成も意外であったが、肝心の幽霊が祟りをなすエピソードが全体のごくわずかなのも意外。巻末解説にあるように、むしろ仏の功徳による怨霊鎮魂譚の方に力点が置かれているようだ。

 その巻末解説が興味深い。中国の怪異譚の翻案である「牡丹灯籠」や鶴屋南北の筆によって流布した「四谷怪談」と異なり、「皿屋敷」は口碑伝承にルーツを持つという。そこに仏教のプロパガンダとしての高僧による怨霊済度のエピソードが融合して、今に残る話型が成立したそうな。

 お菊の幽霊が成仏するに際して献上した皿が、あちこちの寺に寺宝として存在する。「舌耕文芸と仏教界の切っても切れない関係性をものがたる」だそうで。なかなかに微笑ましいではないか。

 さて、本文を読み終えて付録のCDを聴いてみた。前半の、上記プレストーリーをばっさりカットしてあるのは歓迎。夾雑物が無くなってすっきりしたように感じる。本来の講談享受のあり方とは違うのかもしれないが。

『マギル卿最後の旅』 F・W・クロフツ 創元推理文庫

●『マギル卿最後の旅』 F・W・クロフツ 創元推理文庫 読了。

 今や記憶も定かではない四十年近く昔、あかね書房の少年少女世界推理文学全集で読んだ。内容は忘却の彼方だし、今回は大人向けの訳だし、ほぼ初読と言っていい。

 なかなかの難事件で、捜査陣は何度も行き詰まる。だがその度に地道な捜査が奏功し、時には幸運も味方して新たに追及すべき道筋が見出される。倦まず弛まず事件解決を目指して歩を進めてゆくフレンチ警部の姿は、これぞ安心安定のクロフツテイストである。そして、地味で堅実なだけではないのがこれまたクロフツ流。きちんと外連味も用意されてあって嬉しい。

 フレンチは、この事件を解決すれば出世の足掛かりになると意気込む。つかの間の空き時間には、スコットランドからアイルランド方面の風景を旅行気分で楽しんでいる。微笑ましいことである。

 あまりにかっちりした内容で、読了するまでにちと疲れてしまった。だがその疲れは、長距離持久走を完走したような達成感と爽快感とを伴うものである。

●書店に寄って本を買う。
ビーフ巡査部長のための事件』 L・ブルース 扶桑社ミステリー
 リアル書店では今年初の本買いである。

『鮎川哲也探偵小説選』 論創社

●『鮎川哲也探偵小説選』 論創社 読了。

「白の恐怖」は再読。桃源社版を読んだのは十三年前である。忘れていた真相を途中で思い出すと、なるほどこのネタだったら(伏字)でないといけないってのが理解できる。

 挿絵も含めて五ページほどの掌編シリーズ「探偵絵物語」は、どれもちょっとしたアイデアが盛り込まれていて楽しい。その中では「アドバルーン殺人事件」が個人的ベスト。「無人艇タラント号」が海外ネタのいただきだったり、シリーズ中に同種のアイデアが何度か繰り返されていたりってのはご愛敬だけども。

 その他の短編で一番気に入ったのは「草が茂った頃に」で、一ページに満たない分量でミステリを成立させている。これがもう一段階短くなったら猟奇歌になるところだ。

 「白の恐怖」の改稿版だという「白樺荘事件」は、展開からすると真相が変わっていると思しく、未完が残念。だがこの作品は読めるということに大きな意義がある。

今月の総括

●今月の総括。
買った本:五冊
読んだ本:十冊
 横溝読書会で「びっくり箱殺人事件」を読んだので、同時収録の「蜃気楼島の情熱」を再読すれば角川文庫『びっくり箱殺人事件』を読了数に計上できたのだが。「蜃気楼島~」って真相がヘビーなので、読むのにちょっと身構えてしまう。

『森下雨村探偵小説選II』 論創社

●『森下雨村探偵小説選II』 論創社 読了。

 メインの長編「三十九号室の女」は、ホテルの一室での殺人事件を巡り、警察と主人公と二方面の探索活動が描かれる。前者の模様は私好みの地道なもので、これは読ませると期待した。ところが後者の主人公とその友人の探偵活動は、沈思黙考よりも動きを見せることを重視したのか、偶然を多用し偶然を繰り返す筋の運びがどうも困りもの。

 雨村はフレッチャーに影響を受けたそうで、なるほどいかにも、と思う。どうやら、この作家殿の志向と私が期待するものとではかなり違っているらしい。論創社の二冊目にしてようやくそれが見えてきた。論創社の第三巻はちとてこずるかも知れぬ。

 同時収録の短編は軽い味でさっと読んでしまえる作品が多く、特にコメントしたくなるようなものは無かった。例外は「三つの証拠」と「喜卦谷君に訊け」くらい。前者は些細なことではあるが手掛かりに基づく推理が描かれてあって、もうそれだけで好感が持てる。ページ数の少なさがいかにも窮屈ではあるが。「喜卦谷君に訊け」は探偵小説というより犯罪を扱ったコントで、ユーモアに軸足を置いた軽快な面白味がある。

●直販でお願いしている本が届いた。
ロンリーハート・4122』 C・ワトソン 論創社

『バジル』 W・コリンズ 臨川書店

●『バジル』 W・コリンズ 臨川書店 読了。

ウィルキー・コリンズ傑作選」の第一巻である。なにしろ十九世紀半ばの作品だから、まどろっこしくて退屈で、時代がかって大仰で、読むのがしんどいだろうと思っていた。だが読み始めるとその予想はいい方向に完全に外れ、なんと面白いことか。もう少し台詞回しを簡潔にし、全体のテンポを速くしたら戦後に書かれたサスペンス作品としても通用しそうである。

 まず、序盤から不気味。主人公の青年貴族バジルが行きずりの娘に一目惚れし、こっそり後をつけて彼女が住んでいる家を確かめる。以来彼女に妄執を抱き、ストーカーまがいに付きまとって結婚を迫る。不思議なのは、そんな彼のことが特に否定的に扱われていないこと。よく分からないのだが、当時の価値観ではまっとうな純愛物語だったのだろうか。

 スローテンポで進む物語の中に、やがてかすかに不穏な空気が漂い始める。娘の一家に謎の影響力を持っている、奇妙な男。娘が時折垣間見せる、欲深さと冷酷さ。だが、恋に目がくらんだバジルはそんな危険信号をまるで意に介さない。

 展開が予想外だし、人物像にも予想外の裏の顔が潜んでいる。世間知らずのお坊ちゃんの惚れたハレタ話が、ある事件をきっかけに(伏字)ストーリーへと変貌して、そのままクライマックスに向かって突き進んでゆく。

●今年から、臨川書店のコリンズ傑作選を読んでゆくことにする。全十二巻を、年四冊のペースで三年計画。いくら面白いといってもまどろっこしいのは事実だし、しかも二段組だ。読むのにちょいと苦労するかもしれない。

●お願いしていた本が届いた。
『幽霊紳士』 大下宇陀児 東都我刊我書房

第五回オンライン横溝読書会『びっくり箱殺人事件』

●第五回オンライン横溝読書会を開催した。課題図書は『びっくり箱殺人事件』。雑誌『月刊読売』に、昭和二十三年に連載された作品である。参加者は私を含めて十名。

●会ではネタバレ全開だったのだが、このレポートでは当然その辺りは非公開である。なお各項目末尾に数字が付されている場合、角川文庫『びっくり箱殺人事件』旧版のページを示す。

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◆まずは参加者各位の感想を簡単に語っていただく
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「初読は二十代の頃で、そのときはファースについていけなかったけど、年を経て今読むと面白い」
「さっと読むと動きだけ追ってしまう。細かいユーモアをひとつひとつ調べてたらすごく時間がかかった。言及されてた映画を自分でも観てみた。こういうのを横溝正史も観てたんだと思うと嬉しくなった」
本格ミステリとしてはどストレート。ほどよくてくどくないコミカルな描写がいい味付け」
「読んで楽しい。音読しても楽しい。当時の時代背景がさりげなく書いてあって楽しい」

「以前読んで独特の擬音(ボエン、モギャー)だけが強く印象に残ってた。でも再読するとちゃんとしてる」
「正史の上手さ。ちょうど乗りに乗ってた時期の作品」
「前半が全然進まずに苦痛だった。途中から頭の中で等々力警部を市川映画の警部(加藤武)で置き換えるととても読みやすくなった。そのくらいのノリでいいんだと思ってたら、最後にきちんとまとまった。初読の記憶があいまいでみくびっていたけど、再読できてよかった」

「話の作りが非常に整理されている。いらないものを削ぎ落として練り込まれている。登場人物に深い行動原理を持たせてなくて、ひたすらテンポのいい文章に乗せて読みやすい」
「気軽に書いてる感じ。本格ミステリとしてのストーリーもある。でもこういう書き方じゃなくてただのミステリとして書かれたらいまいちかな」
「上辺のおふざけの下にしっかりしたミステリ趣味が含まれている。正史の文章の特徴として、軽い会話や軽いシーンを書くときに漢語をカタカナにする。その特徴がよく出ている作品」

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◆司会者から最初のお題
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 この作品は上辺のおちゃらけの下にしっかりしたミステリ趣味がある。まずはミステリとしての評価を考えたい。また関連して、正史の念頭にあったというディクスン・カーやクレイグ・ライスの作品と比較してのコメントもいただきたい。

 まずはミステリとして。
「正史って実は、トリックのためのトリックよりもこの作品のようなロジック重視の書き方が上手いんじゃないか。この方面をもっと書いてれば面白いものができたかも」
「『横溝正史研究5』で紹介されてる改稿版が完成していれば」

「人の動きが曖昧」
「そこら辺にこだわりなく気楽に書いてる感じがする」
「正史ってこだわりだすとゴリゴリに設定を盛っていく人だから、この作品ではそれが人物名に向けられている」

 次に関連作品について。
ディクスン・カー『盲目の理髪師』の注目要素として、酔ったらいろんな物を盗んで人にあげちゃう人物、船長が何度もひどい目に遭う、暗がりを上手く使う」
「その要素が『びっくり箱殺人事件』になると、酔ったらやたらに高いところに上りたがる人物、警部が何度もひどい目に遭う、暗がりを上手く使う」
「船長はその空間の秩序を代表する。警部の位置付けも同様で、その場の秩序を代表する存在」

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◆話は発展して、横溝正史にからむ中ネタ小ネタへ
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「気楽に書いている気がする」
「テンポがよくて勢いで読めるし、分かりやすい」
「コロラチュラという言葉(P46)で、どんな悲鳴だか想像できる」
「犯人と対決する場面の、電気が暗くて蒸し暑いジリジリ感が正史の上手さ」

「正史は好きな場面を好きなように書いてある」
「パンパン嬢達が警官を脅かす場面(P115)は、正史先生ノリノリ」
(参加者の好きなシーンは)
「モギャーのシーン(P137)が大好き」
「はっはっは、というノリからの南無三、しくじったりという急激な文章トーンの変化も好き」
電子書籍で検索したら、モギャーの擬音は三十二回出てくる」

「正史って、ロマンスが結構好き」
「しっちゃかめっちゃかな展開の裏で、いろんな恋愛物語が起きている」
「終盤にカップルがパカパカできあがるのはラブコメお芝居の王道」

「(結末部分なので非公開)ではものすごい省略をしている」
「連載時に結末で駆け足になるのは正史の癖」
「改稿版がもし完成してたら、この辺りももう少し詳しくなったかもしれない」
「でも、よくわかんない勢いで読ませるのもいい」
「これ以上書き込むとこの内容だとちょっときついかも」

「他の横溝作品に出てくる要素がこの作品でも見られる。ガールシャイとかチータッタとか。野崎六助は、『幽霊男』の建部健三と表裏一体。ぼんくら記者で劇場(『幽霊男』ではヌード写真クラブ)に入り浸っている」
「パンパンのお姉様達が義侠心で野崎六助に協力してくれる。これは『悪魔が来りて笛を吹く』で、金田一耕助が旅館の女将の義侠心にすがったシーンを思い出す」

 角川文庫では『蜃気楼島の情熱』が同時収録されている。
「『蜃気楼島の情熱』の方が短いけど重くて読みごたえがあった」
「『びっくり箱殺人事件』は膨らんでて軽い」
「体感時間が短い」

「連載開始の昭和二十三年ってのは『獄門島』が連載中だし、『夜歩く』は二月から始まるし、前後して『黒猫亭事件』、『殺人鬼』、『黒蘭姫』と立て続けに作品が発表されている。やがて二十五年に大喀血に至る、大量執筆時代の始まりの時期」
「同時期に、ご子息が大学に合格して一家で帰京した。プライベートでも忙しい」

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◆司会者からふたつ目のお題
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 作品中には、戦前からの大衆文芸や寄席演芸に関するネタ、そして流行や時事ネタなどが大量にちりばめられている。今となっては調べるのが難しい項目も多いだろうが、ひとつひとつ挙げていただきたい。

「章題は基本的に映画の題名のもじり」
野崎六助は一六新聞に勤めているが、二六新報という新聞社が実在した。八八新聞はよく分からない」
「昭和十八年の本に、すでに『タハッ』の表記がある」
「『分からなければ鐘ですぞ』というのは、当時そういうラジオのクイズ番組があった」
「『チャーリー・マッカーシー(P108)』は腹話術の人形」
「等々力警部が配給の大豆粉で腹を壊した(P142)が、実際に昭和二十二年に大豆粉による中毒事件があった」

「日本映画に女形なるシロモノが存在していたころ(P26)という記述の背景は、大正七年から起きた純映画劇運動。それまで映画で活躍していた女形が起用されなくなった」
「ということは葦原小群はかなりの歳なんだね」
深山幽谷よりはるかに先輩だし」
「ボエンとやられたショックでよく死ななかった」
「意外とこの劇団って平均年齢が高い。花子だって、自称二十八歳だけど三十超えてるだろうと書いてある」

「作品中に帝銀事件が出てくる。現実の事件発生は、連載と同年の昭和二十三年一月。作中に登場したのは五月号の第五回。そのとき実際の捜査はまだ継続中だった。正史は現在進行中の時事ネタを素早く取り込んだ」

 結局よく分からなかった項目。
無声映画の『赤き赤きこころ』
・江戸の昔から鮮度の落ちたまぐろに当たることはあったようだが、なぜここでまぐろ中毒が出てくるのか(P89)
・アミダくじと食い意地がなぜ結びつくのか(P119)
・もく星号で墜死した大辻司郎がモデルになっているという説もある
・葦原小群のモデルは葦原将軍だろうが、それ以外にモデルに相当する実在の女形がいたのかもしれない

終戦直後の社会風俗を知らないとよく分からない部分がある」
「細かく調べようとすると時間がいくらあっても足りない」
「同時代の読者なら、もっといろいろ分かっただろう」
「現代で言うと映画『金田一耕助の冒険』みたいなものか」

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◆題材になったレビューについて
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「神話に準拠するならパンドーラの匣を開けるのは女性じゃないといけないのに、なぜ男性の石丸が開けても通用すると思ったのか」
「そこはいかにも、テキトーなレビューって感じがする」
「レビューのあらすじ(P17)を読んでも面白いと思えないんだけど」
「足を上げてりゃいいんじゃないの」
「足を上げるのってそんなに重要なのか」
「当時はそれがレビューの目玉だったのでは」
「昭和五年のレビューでも、悩ましい曲線美を見せる演出がはやった」
「花子は足のあげかたが抜群だから主役になれた」

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◆現実の芸能史を踏まえて
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「当時は映画とレビューの二本立て興行があった。もともとレビューは映画の添え物で、映画の料金で両方を観れた。その後レビューにだんだん金がかかるようになってきて、入場料を値上げせざるを得なくなってきた。そうなるとレビューの質も問われるようになる。大手の劇団なんかはレビューに力を入れることができたが、作中の梟座は金がなく設備も乏しい貧乏組織で、間に合わせのレビューを仕立てるしかなかった」

「梟座に金がなかったのは重要な要素。なぜなら設備が貧弱で場内が暗いからこそ、この物語が成立する」
「同じ空間にいるのに互いに気付かないとか」

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◆ネーミングに関する考察
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「登場人物の多くは、本名の他に役名も持っている。深山幽谷に至ってはさらに「昭和の蜀山人」なるあだ名まで付いている。被害者、探偵役、犯人など、作中の重要さに比例するように名前の数でグラデーションが形成されている。同種の傾向として、登場人物が屋号のふたつ名を持つ『悪魔の手毬唄』」

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◆その他小ネタいろいろ
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「マネージャーの恭子は幽谷のことを必ずパパと言い間違える。その回数があまりに多すぎて、もういいぜ、と思った」
「それは繰り返しのギャグなんじゃないの」
「今は娘ではなくマネージャーなんだよってのを読者に伝える意味もあったりして」

「文庫では分からないけど、初出を確認すると第十六章で連載の区切りがあった」
「この書き方(P194)だったらそこで区切るよね」
「続きは次号のお楽しみ」
「読者への挑戦もできる書き方」
(どういう内容なのか、各自で確認してごらんなさい)

野崎六助が酒場で警官の追及を逃れたとき、物置の壁から手を突っ込んでお面を取り外す(P108)には、向こう側に落とすしかない。酒場の床にお面が落ちていたはず」
「酒場は薄暗いから警官には気付かれなかったんだよ」
「ここでも暗がりが物語の進行上で活用されている」
「こうなると、薄暗さもロマン」

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◆ネタバレ非公開部分のキーワードだけ並べておく
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 あの推理が可能だったのは偶然、どのタイミングで強請ったのか、凶暴にならないって言ったじゃん、ずいぶん都合のいい仕掛け、なぜ三本なのか、なぜそこに隠した、ラストシーンは神話、あれは希望のキスだ(綺麗!)、お互いに勘違いってのはちょっと無理がある、暗転するお芝居、犯人との軽妙な会話。

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◆なんとなくのまとめ
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『「びっくり箱殺人事件」語辞典』が欲しい。

『オリエント急行の殺人』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『オリエント急行の殺人』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。

 記憶が定かでないが、四十年ぶりに近い再読。初読は新潮文庫だったが、その本はいつの間にか染みだの黴だのでボロボロになっていて、やむを得ず処分した。持っておきたい作品なのでクリスティー文庫の創刊に合わせて買い直し、以来積ん読だったのをようやく読んだ。

 この強烈な内容はさすがに覚えていて、真相を知っているからこその面白さがある。のっけから、ここは伏線だと分かる描写があってスリリング。終盤の盛り上がりが素晴らしいし、結末の(伏字)は感動的ですらある。メインの大ネタ以外にクリスティーが仕掛けたお得意の小ネタ、すなわち(伏字)も、心ニクい出来栄えである。

 そりゃあ真相を知らないで読んだ驚きは得られないけれども、再読でもめちゃめちゃ面白かった。中盤に尋問が続く展開の意味を知っていて、流せる部分は流す読み方ができるので、そういう面ではむしろ再読の方が楽しめるかもしれない。

●注文していた本が届いた。
『まほうのつえ』 ジョン=バッカン 湘南探偵倶楽部
『バナナの蔭』 大倉燁子 湘南探偵倶楽部

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第九回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第九回として、第二巻を読み進める。今回読むのは、「シヤアロツク・ホウムズの事件録」の前半六編である。訳者は横溝正史としてある。だが実際のところは名義貸しらしい。

 いまさら感想でもないので、コメントはひとつだけ。「吸血鬼」は装飾としての怪奇趣味よりも、真相の方が不気味。