累風庵閑日録

本と日常の徒然

第4回横溝読書会

●都内某所にて、「第4回横溝読書会」が開催された。課題図書は「八つ墓村」である。参加者は幹事、司会者含めて総勢十一人。初参加のお方が二人もいらして、盛況喜ぶべし、である。駅に集合して会場に移動し、本や資料やお菓子やらをテーブルに広げて、さて始まり始まり。

◆まずはいつもの通り、自己紹介を兼ねて順番に感想を述べてゆく。
「計画犯罪と突発的犯罪とがごっちゃになってこんなに複雑な作品になっていて、読み応えがあった」
「話を面白くするために偶然を活用している印象」
「これってハッピーエンドと言っていいのか?」
「朝五時に起きてDVDでドラマ版を観てきた」
「辰弥の印象が悪くて読みづらさを感じた」
「意外とラブストーリーだった」
「主人公の一人称語りのスタイルは、探偵小説というより冒険小説に近いのでは」
「主人公が責められる話は苦手」
「犯人を見つけようとしない主人公はなんなんだ」

◆そこから途切れることなくフリートークへと移行してゆく。真相に関する会話が多いので、この辺りは大幅に省略。
「犯人を暴いてやろうと行動する人物がだれもいない」
「村人は祟り祟りで凝り固まっているし、私怨を晴らしたい思いがあるから、真犯人を探すのは二の次になっているようだ」

「犯罪計画は、実際はかなり破綻している。それでも決行したこの犯人は凄い」
「わずかでも目的達成の可能性があれば突き進む犯人」

「基本的には辰弥の手記だけど、Y先生の手が入っているのでは」
「そりゃあそうでしょう、素人がこんな分量を書けないと思う」
「Y先生、話を少し盛ったんじゃね?」

「なぜ映像化されると典子はいつも省かれるのか?」
「ヒロインが多すぎるのでは」

「正史は洞窟好きだったのか?」
八つ墓村、不死蝶、迷路荘、悪霊島
「鍾乳洞に本人が行ったとは思えないから、人に聞いたのだろう」
「地面が柔らかいという描写で、本人が実際に行ってないことが分かる」

「子供の頃読んだときは、探偵小説としてよりも、洞窟内の冒険こそが面白かった」
「「八つ墓村」の洞窟探検が凄く面白かったから、「不死蝶」を読んだら拍子抜けだった」
「探偵小説に興味のない知人に横溝を読ませたら、「獄門島」はつまらない、「八つ墓村」は面白かったと言われた」
「なんとなく面白そうな話、と訊かれたら「八つ墓村」を勧める」

他に、詳細は省いてキーワードしか書かないけれど、顔が似ている、手紙、埋蔵金、辰弥が見つからなかった場合は、犯行の動機、メモの人選、正史のチャレンジ精神と構成力、毒の保存性、全国共通認識としての芝居ネタの活用、などなど。

◆「津山事件」の取り扱い。
「津山事件をいまひとつ活用できていないのでは」
インパクトが強すぎて、作品全体から浮いている」
「ストーリーにあまり本質的な関わりを持たない」
「でも後半の展開に説得力を持たせる意味はある」
「二度あることは三度ある、という演出として手頃な題材だったのでは」
ここから頭の懐中電灯の話に発展してひと通り盛り上がる。さらに、津山事件そのものの話にも。皆さんお好きなようで。

◆現実世界を踏まえた話題も出た。
「亀井という苗字は尼子の家臣に実在するし、家紋も亀井家と尼子家とで似ている」
「美作の国で毛利の詮議がそれほど厳しいとは思えない」
そして八つ墓村の位置に関する考察も盛り上がる。
そんな中、参加者の一人からの冷静な発言。
「後年になってそんな細かいところを突っ込まれるなんて(苦笑)」

◆やっぱり乱歩の話題は避けて通れない。
「「孤島の鬼」を意識している」
「「孤島の鬼」の主人公は白髪になっている」⇒「辰弥「白髪になる小説があるけど……」」
「御詠歌みたいなものも出てくる」

◆典子って実はスペックが高い!
「おっとりはしているがぼんやりではない」
梅幸尼にお膳を届けてあげればいい、などど気付ける」
「じゃあその代わり毎晩来てくれ、と交渉している」
「周囲の人物像をちゃんと観察している」
「村の人間関係、力関係をしっかり把握している」
「辰弥に真実を伝える存在」
「後半はすっかり主導権を握っている」

◆それに対して辰弥の造形は不評。
「いろいろ大事な情報を黙りすぎ」
「辰弥はヘタレ」
「主人公ではあるがヒーローではない」
「女性に対する評価が辛辣」
「男前で肌がきれいではあるが、孤独癖があって憂鬱だからお前モテないんだよ」
「好かれた経験が乏しいから、告白されるとコロッと参ってしまう」
「あまりにも単純。典子が無邪気な告白をしたとたん、彼女のなまめかしい首が気になり始める」
「お前は中学生か」
「典子に惚れたのは吊り橋効果なんじゃないの。そんなんでこの先大丈夫か」
「いやいや、しっかり者の典子に尻に敷かれてるだろう」
割とぼろくそに言われている(笑)

◆個人的には以下の疑問が解消されたのがよかった。
「犯人はなぜ酢の物を食べたのか」
「某人物はあのときなぜ犯人をかばったのか」
答はここには書かない。

●会はずいぶん盛況で、終了時刻ぎりぎりまで会話が途絶えることがなかった。その後駅前の喫茶店に移動して、またひと通りお喋り。さらに居酒屋に移動してまたまたお喋り。なぜか話題は幼少時の特撮ドラマに。私は電車の都合があって、ひと足お先に居酒屋を後にする。

●以上、今回も大変楽しい読書会であった。参加人数が前回比でほぼ倍増したのは、課題図書の選択のおかげだろうか。人数が増えたおかげで、各自が持ってきたお菓子がテーブルに山積みになっていたのが印象的であった。