累風庵閑日録

本と日常の徒然

『サイモン・アークの事件簿IV』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『サイモン・アークの事件簿IV』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。

 一冊の本の感想は、ただその一冊の内容だけで定まるものではない。現在その時の気分や体調にも左右されるし、直前にどういう本を読んだかにも大きく影響を受ける。どうにも薄味だった千代有三の後に読むホックは、ミステリ趣味が甚だ濃厚で、そういった差のおかげもあって大いに楽しめた。これは面白い。これは嬉しい。こういうのだよ読みたいのは。

「黄泉の国の判事たち」
 長い間離れていた生まれ故郷が、もはや自分の街ではなくなっていることに気付く。そんな挿話がやけに沁みる。 

「ドラゴンに殺された女」
 (伏字)ネタの手がかりが実にお見事。伏線がいろいろあるのも嬉しい。収録作中であえて順位を付けるなら第二位としたい。 

「一角獣の娘」
 オープニングの強烈さと、真相にまつわる物語の厚みとを買う。

 「ロビン・フッドの幽霊」
 この作品が収録作中のベスト。二十本もの矢で射殺された死体、という事件が魅力的。真相の全体像が面白いし、伏線もしっかりしている。他の作品には動機面で減点したくなる部分もないではないが、この作品は動機も納得できる。

「死なないボクサー」
 大きな伏線がふたつあって、ひとつには脱帽、もうひとつにはあまり感心しない。どちらも気付かなかったけれども。前者は、指摘されればあまりにもあからさまで、気付かなかったのは全く降参。後者は、作者が上手くいくように書いたから上手くいったタイプの伏線である。