「ミステリーの愉しみ」の第三巻である。
以下、気に入った作品と気に入ったポイントをいくつか挙げておく。島田一男「殺人演出」は、軽快な文章としっかり書かれた伏線。いろいろ素朴な部分はあるが、書かれた時代を考えれば欠点にはならずむしろ微笑ましい。鬼怒川浩「鸚鵡裁判」は、展開の奇妙さと真相の絵柄の面白さ。
宮原龍雄「三つの樽」は、冒頭の謎の強烈さ。再読だし真相は覚えていたけれども、それでも強烈である。鷲尾三郎「文殊の罠」は、仕掛けられた罠のスケールの大きさ。土屋隆夫「肌の告白」は収録作の中では最も新しく、昭和三十四年の作品ではあるが相対的に現代風の味わいが新鮮であった。
収録作中のベストは黒輪土風「六人の容疑者」で、なんとある種の(伏字)ネタを二十ページそこそこでやってのけるのが凄い。