累風庵閑日録

本と日常の徒然

『納骨堂の多すぎた死体』 E・ピーターズ 原書房

●『納骨堂の多すぎた死体』 E・ピーターズ 原書房 読了。

 題名の通り、納骨堂で発見された死体を巡るミステリである。だが、作者の力点は事件と同程度に、思春期の少年の揺れ動く心情と親子の絆とにも注がれているようだ。申し訳ないがそういうのは求めていない。

 この作者のカドフェルシリーズは全巻読んだが、中盤以降は惰性だった。私の好みではないのだ。本書を読むと、ピーターズは最初からピーターズだったのだと、まあ当たり前のことが分かる。

 けれども結局、読後感はそれなりに満足。何故なら背景となる物語が大変に魅力的なのである。それこそ現在の事件がかすんでしまうほどに。助演女優賞は、背景物語の方のキーパーソンに差し上げたい。

 事件そのものにも、伏線の面白さはある。あのエピソードの意味はこれだったのかと分かる展開がいくつかあって嬉しい。