累風庵閑日録

本と日常の徒然

『シャーロック・ホームズを訪ねたカール・マルクス』 A・ルカーユ 中央公論社

●『シャーロック・ホームズを訪ねたカール・マルクス』 A・ルカーユ 中央公論社 読了。

 若き日のホームズが、マルクスの命を狙う暗殺者を阻止するためにパリに潜入する。年代設定は千九七一年で、研究家諸氏の説によれば「グロリア・スコット」よりも前らしい。つまりここに登場するホームズは探偵としても人間としても発展途上なわけで、弱さも愚かさもある人物として描かれている。また、ためらわずに敵を殺す荒っぽさがあり、知性と思考の人というより行動の人である。中盤でホームズが(伏字)ってのも、どうもらしくない。

 全体として、史実を絡めた肉体派冒険小説のノリである。パスティシュに散りばめられがちなホームズトリヴィアはわずかだし、主人公がホームズでなければならない必然性があまり感じられなかった。ただ、終盤のふたつの段落にこの作品の主題を見出したので、まあ読んでよかったと思う。作者の本当の意図は知らんけどな。