累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ドイル全集 第五巻』 改造社

●『ドイル全集 第五巻』 改造社 読了。

改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十六回として、第五巻で最後に残っていた「ラフルズ・ホー行状記」を読んだ。訳者は石田幸太郎である。

 田舎に広大な地所を買い豪邸を建てて引っ越してきた大富豪ラフルズ・ホー。その金持ちぶりは極端に誇張され、落語の「宿屋の富」のようなナンセンスな味わいが楽しい。だが、楽しんでばかりもいられない。物語は次第にグロテスクな様相を呈してくる。

 ラフルズは自らの無尽蔵の富を世のため人のために使おうと志している善意の人であったが、浅慮の人でもあった。困窮した人々を救おうとして湯水のごとく金を使うとき、彼がばらまいていたのは金と善意とではなく、金と害悪とだったのだ。人々はたやすく与えられる金を目の前にして、欲をつのらせ怠け者になってゆく。ラフルズは、人間に欲と怠惰な心とが備わっていることに思い至らなかったのである。

 ラフルズの影響を最も大きく被ったのは、もとから近所に住んでいたマキンタイア家の人々である。貧しくとも前向きに生きているそれなりに善良な人達であったが、ラフルズとの交際を深めるにつれて次第に変貌してゆく。金の魔力に絡めとられる人々をちょいと意地悪な視点で描いた佳品である。ラフルズの富の源泉に焦点を当てるならば、(伏字)ネタの佳品でもある。

 来月からは第六巻にとりかかる。