累風庵閑日録

本と日常の徒然

『川野京輔探偵小説選III』 論創社

●『川野京輔探偵小説選III』 論創社 読了。

 一巻二巻を読んで分かっていたことだが、この作家は残念ながら好みから外れている。コメントしたい作品は多くない。「手くせの悪い夫」は、これほどまでに奇天烈さが突き抜けているといっそ笑える。「二等寝台殺人事件」は、長編級の情報量を二十ページにぎゅうぎゅうに詰め込んだ濃縮ぶりが異様。その逆に「愛妻」はわずか三ページで情報量も限られているが、時間と心理との奥行きが感じられる佳作。

 個人的ベストは「御機嫌な夜」であった。他の作品とは異なるトーンの書きっぷりが新鮮だし、探偵役が犯罪を解明する展開が型通りで私好みだし。犯行のネタは、フットレルの思考機械シリーズにも使われているシンプルなもので、それも私好み。