メインの長編「姿なき怪盗」は、起伏が激しく展開の早い快作。細けえこたあいいんだよの精神で、甲賀三郎の筆に流されていけばよろしい。あえて書くなら、敵の首領がほとんど背景に退いているので、主人公対悪漢の闘争劇という側面がちと薄い気はする。面白かったので、獅子内俊次ものをもっと読みたくなった。
「妖鳥の呪詛」は佳作。犯人設定も、犯行手段も、伏線も、なかなかのものである。かなり荒っぽい部分があるが、それが甲賀三郎の持ち味なのだから気にならない。「情況証拠」と「波斯猫の死」とに盛り込まれたアイデアも、ちょいと感心した。
同時収録の深草淑子作品集では、「嫁釣り」が秀逸。わずか一ページほどの分量でここまでしっちゃかめっちゃかな情況を書けるのが凄い。
●書店に寄って、取り寄せを依頼していた本を受け取ってきた。
『怪獣男爵』 横溝正史 柏書房
ついに刊行が始まった「横溝正史少年小説コレクション」の第一巻である。このシリーズは全七巻の予定で、初出誌・初刊本に準拠したテキスト、初刊本の挿絵を多く収録、さらに解説と資料とが充実しているという大変な好企画である。もちろん全巻買うし、せいぜい応援したい。嬉しいから柏書房の該当ページにリンクを張っちゃおう。
●今月の総括。
買った本:十三冊
読んだ本:十一冊
甲賀三郎は来月に持ち越すつもりだったが、予想外にさくさく読めた。