累風庵閑日録

本と日常の徒然

「不知火奉行」

●九月の横溝イベントに向けて、副読本として出版芸術社の『不知火奉行』の表題作を読んだ。テンポの速い展開に軽妙な会話、主人公格のふたりのやり取りも面白く、なかなかの佳品であった。内容の繰り返しになるが、七年半前に読んだ時の日記を再掲しておく。

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 あっぱれ明朗娯楽時代劇。しかもミステリの趣向もあって、なかなかの快作である。主人公の筑紫源三郎と、親友で与力の若江平馬との関係が楽しい。相手が怪盗不知火だと薄々気付いていながら決め手を持たない与力と、相手が気付いていることを気付いている源三郎とが、何かというと高らかに笑いあう。その一触即発の和気藹々ぶりがひとつの読みどころ。
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 この作品のポイントのひとつが、冒頭の川開きのシーンが「夜光虫」の再利用だということである。ところがもう一点、巻末解説に興味深い記述がある。作中に出てくる金座のエピソードは、「菊水兵談」からの流用だというのだ。ということは、この作品は夜光虫との関連以外に「菊水兵談」⇒「金座太平記」⇒「不知火奉行」という補助線が引けるのかもしれない。こうなったら「菊水兵談」の内容も確認しなければなるまい。