累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ロンドン橋が落ちる』 J・D・カー ポケミス

●『ロンドン橋が落ちる』 J・D・カー ポケミス 読了。

 敵役がちゃんと憎たらしく描かれていると、面白さのランクは確実にアップする。それはいいのだが、実にあっけなく決着がついて、あらららと思う。ヒロインをスキャンダルから救おうとする取り組みと、ヒロインへの攻撃を執拗に企む悪女相手の闘争とが前面に出て、殺人の謎は背景に退いた感がある。そんなこんなで、読んでいる間はどうもいまいちであった。

 だが読了してみると、結局のところミステリに収束していて満足である。殺人手段がちょっと面白いし、大小様々な伏線が予想以上に多く散りばめられている。なにげない会話に含まれる、ちょっとしたほのめかしや暗示が手掛かりだということになっているのだが、そんなの気付くわけないだろ、と思う。ページを遡って該当箇所を探しても見つけられなかった手掛かりがある。そういった些細すぎる手掛かりこそがカーの持ち味で、嫌いではない。