累風庵閑日録

本と日常の徒然

『エッジウェア卿の死』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『エッジウェア卿の死』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。

 エッジウェア卿が殺される直前、別居中の妻ジェーンが屋敷を訪れ、黙って立ち去っていた。動機の強さもあって、彼女が犯人であることはあまりにも明白。というのが、一番最初に提示される事件の構図である。その後状況が明らかになるにつれ、事件の構図は根底からの再構築を余儀なくされる。事件に対する仮説の前提条件に新たな立脚点を導入することで、目に見えている状況の意味合いがぐるっとひっくり返る面白さよ。

 主人公格のジェーン・ウィルキンスンの造形がずば抜けている。自分の望みを実現することにしか興味がなく、道徳だの社会規範だのはまったく眼中にない。大切なのは自分の幸せだけ。他人の幸せどころか、他人の命すらご興味ござらぬ。本書の主役は事件でもエルキュール・ポアロでもなく、まぎれもなくジェーンなのであった。

●ところでこれで、クリスティーのミステリを全て読み終えた。

●まったく久しぶりに古本を買う。五月以来である。
『ベイ・シティ・ブルース』 R・チャンドラー 河出文庫
砂の器(上)』 松本清張 新潮文庫
砂の器(下)』 松本清張 新潮文庫

 松本清張は今までに四、五作しか読んだことがない。代表作だけでも読みたいと思って、手を出してみた。