累風庵閑日録

本と日常の徒然

『レティシア・カーベリーの事件簿』 M・R・ラインハート 論創社

●『レティシア・カーベリーの事件簿』 M・R・ラインハート 論創社 読了。

「シャンデリアに吊された遺体」
これは厳しい。発端もその後の展開もやたらに派手だし、一見推理の基となりそうな手がかりも多い。だが、肝心の犯人は(伏字)し、真相は(伏字)判明するしで、どうにもいただけない。これでは探偵による事件の解明ではなく、作者による事件の説明ではないか。

 他の二作品については特にコメントはなし。通読してふと思ったのだが、このシリーズはそもそも主人公三人組のてんやわんやを描くことが主眼であって、ミステリとして作られているわけではないのではなかろうか。犯罪を扱っているのは、ただ単に物語を転がす題材として採用されただけだったりして。

 三人組のキャラクターが特異。ティッシュことレティシアは我儘で傲慢で、人の話を聞かず人の主張を受け入れず、自分の都合と思い付きとで周囲の人間を振り回し、しかもそれを当然と思い込み、間違いは認めないかさもなくば他人のせいにし、事あるごとにすぐにばれる嘘を口走り、経験から学ばない。その友人アギーは、何かというと泣きだしてぐずぐず文句を言うネガティブ人間。語り手のリジーだけがある程度の常識人らしいが、その人物像はあまり描かれない。

 翻訳されて手軽に読めるようになったことは喜ばしいし、続編が翻訳されればもちろんお付き合いするが、このまま翻訳が途絶えても惜しいとは思わない。