累風庵閑日録

本と日常の徒然

『魔都』 久生十蘭 朝日文芸文庫

●『魔都』 久生十蘭 朝日文芸文庫 読了。

 流麗な文章で語られる、複雑怪奇な都市綺譚。新聞記者古市加十の登場で幕を開けた物語は、やがて複数に分岐し、合流し、再び離散し混淆し、変転止まるところを知らず。デマと嘘と勘違いとすれ違いとが交錯し、欲と嫉妬と野望と思惑とが入り乱れる。

 読み終えてみると、(伏字)? といった疑問がいくつか、あることはある。だが、そういった問いはおそらく無意味なのだ。数々の疑問は、魔都東京の朧にかすむ夢幻の向こうに漂い消えてゆくのである。

 残念だが、手に取るのが十年か二十年か遅すぎたようだ。面白いことは無類だが、今の私には長過ぎる。気力も集中力も、今より確かに旺盛だったその昔に読んでおくべきであった。日曜の一日読書を離れて気力を整えてから、月曜から取り掛かって読了するのに四日もかかってしまった。