累風庵閑日録

本と日常の徒然

『佐左木俊郎探偵小説選I』 論創社

●『佐左木俊郎探偵小説選I』 論創社 読了。

 メインの長編「狼群」が、意外なほど面白い。政治家暗殺を狙う犯人グループと、組織力にモノを言わせる警察との対決。舞台は房総半島の山林。刻々と変わる状況に応じて都度襲撃計画を修正して臨む犯人側と、ともすれば後手に回りそうな警察との、虚々実々の駆け引き、追跡、騙し合い。

 ポイントは、まず行動を描いていること。情景描写はあっさりしたもんだし、心情を長々と書き連ねるブンガク臭もない。これって、探偵小説というより冒険小説のノリである。ジャック・ヒギンズだとかアリスティア・マクリーンだとかのあれだ。屋外を舞台にしたマンハントものなら、そのままの設定で海外冒険小説になりそう。

 たとえば、こうだ。ナチス高官暗殺の密命を帯びた英国人殺し屋が、高官の別荘付近に潜伏する。やがてその脅威を察知したナチス警察隊を向こうに回し、シュヴァルツヴァルトを舞台にした追跡劇が始まる。ちょっと読んでみたい。

「恐怖城」は、北海道の開墾地を舞台に野望と欲と憎しみとが交錯する、ちょいとハードな犯罪小説。積極的に読もうとは思わないタイプの作品であるが、たまに読むならこういう味も悪くない。