累風庵閑日録

本と日常の徒然

『怪奇人造島』 寺島柾史 パール文庫

●『怪奇人造島』 寺島柾史 パール文庫 読了。

 巻末の記載によれば、この作品の底本は三一書房の少年小説体系である。だが、それ以外の書誌情報はない。たまたまこの作品は青空文庫にも収録されており、付随する情報によると初出は昭和十二年、雑誌「日本少年」の付録だそうで。

 人造島とは、海中にパイプを通して凍結材を循環させることで、動力機構を中心とした氷の島を作るというもの。ところが、題名になっているこの島のエピソードは全体のほんの一部でしかない。主人公の少年は、わずか百ページほどの分量のなかであまりにも波乱万丈な運命に翻弄される。ストーリーの起伏とスピード感とを優先したのか、個々のエピソードはあまり掘り下げられておらず、そのせいでサスペンスの盛り上がりにはちと乏しいようだ。

 それどころか、シビアな生命の危機を描いたシーンのはずなのに、どことなく呑気なホラ咄を読んでいる感すら漂ってくる。命を自在に操る生理学者の怪老人なんざあまりにも超人すぎて、まるで落語を読んでいるような馬鹿馬鹿しい可笑しさがある。「犬の目」のアレだ。副主人公格の陳少年の扱いが唖然とするほど自由で、明後日の方向に転がっていく展開はまるで予想外。

 こいつはちょっとした拾いものであった。パール文庫は、十年前に真珠書院から出て短命に終わったレーベルである。この本自体の入手は少々手間取るかもしれないが、上記のように作品は青空文庫に収録されているので、簡単に読めるはずである。

●注文していた本が届いた。
『瓢庵先生捕物帖 第二巻 初雪富士』 水谷準 捕物出版

●定期でお願いしている本が届いた。
『小さな壁』 W・グレアム 論創社

●書店に出かけて、取り寄せを依頼していた本を受け取ってきた。
『吸血鬼の仮面』 P・アルテ 行舟文化