累風庵閑日録

本と日常の徒然

『跡形なく沈む』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『跡形なく沈む』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。

 犯人探しミステリとしては、残念ながら十分な満足は得られなかった。探偵役が犯人に疑念を抱くきっかけがあまりに些細、あまりに微妙だってえのはむしろ私の好物で、どんとこいである。だがそれ以外の、犯人限定を補完する情報が(伏字)。

 だが、読んでいる間はすこぶる面白かった。大小様々な欠点を持つ人々が、欠点があるからこそ人間臭く描かれている。権勢欲にとらわれた人。嫌なことから目を背け現実に直面したがらない人。社会的上位者を自認し、下位の者を蔑む人。活き活きとして個性的で、いかにも実際にいそうな人達である。そのなかで某キーパーソンの、世の中すべてを憎み復讐を目論む造形があまりに尖がっていて極端すぎると思えるほどだ。彼らが殺人事件の周辺で悩み、怒り、疑い、右往左往する様が面白く、ぐいぐい読める。結末直前までは、年末の「今年一年間に読んで記憶に残った本のリスト」に挙げようと思っていたのだが。

●書店に寄って本を買う。
江戸川乱歩殺人事件-「悪霊」ふたたび』 芦辺拓江戸川乱歩 角川書店
 乱歩関連はもう買わないつもりであったが、先日「悪霊」ネタの本を読んだのでせっかくだからこっちも読んでみようと思った。

●今月の総括。
買った本:五冊
読んだ本:十二冊
 年初から読書が捗って、いいことである。