なにしろ傑作選なのだから、収録作は他のアンソロジーやなんかに採られているものが少なくない。既読が多かったけれども、それはそれ。気に入ったのは以下のようなところ。
カミ「ルウフォック・ホルメスの冒険」
ここまでナンセンスに振り切ってしまうと、ただそのまま受け入れるしかない。
ホフマン「砂男」
題名だけは知っていたが、今回初読である。怪人砂男が跳梁するモンスター・ホラーかと思っていたら、大分違うんでやんの。(伏字)の物語だったとは。
エーウェルス「蜘蛛」
怪奇小説のアンソロジーなんかで既読である。だからこそ途中途中の記述の意味が分かって、初読では味わえない興趣がある。
フロスト「恐ろしき夕刊」
どれも他愛ないものではあるがいくつもネタを盛り込んである。探偵役が手掛かりに基づいて犯人の仕掛けを暴く展開がいかにも型通りで私好み。
ポー「瘋癲病院異変」
ハチャメチャさは群を抜いている。現代では到底書けない珍品
ジャコブス「猿の足」
何度読んでも面白い凄まじい傑作。
ブラックウッド「意外つづき」
題名にある内容の意外さよりも、かの怪奇小説作家がこんな作品を書いているのか、という点の方が意外。
終盤の収録作は、名探偵ものが多い。モリソンのマーチン・ヒューイットもの「稀代の美術品」、フリーマンのソーンダイク博士もの「オスカア・ブロズキイ事件」、ベイリイのフォーチュンもの「絡み猫」など。やはりこの辺りは、読んでいて楽しい。その昔創元推理文庫の「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」シリーズを読んでいた頃のときめきを思い出す。
●収録作のオルチー「砂嚢」は、延原謙の訳で大正十四年に掲載されたそうで。ところがその後昭和十年になって、横溝正史の訳によって再び掲載された。横溝訳の方はコピーを確保しているのでそっちを眺めてみた。活字の大きさが違うし挿絵の有無もあるしで単純比較はできないが、どちらも二段組みで延原版は十二ページ、横溝版は九ページである。文章は、書き出しからしてかなり違う。完訳でない分訳者の裁量が大きいのだろう。
●注文していた本が届いた。
『悪魔屋敷』 角田喜久雄 捕物出版