累風庵閑日録

本と日常の徒然

『そして医師も死す』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『そして医師も死す』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。

 人間誰しも、多かれ少なかれ負の要素を持っているだろう。すなわち、卑しさ、愚かさ、臆病さ、幼さ、軽率さ、だらしなさ。登場人物達はそれぞれに様々な負の要素を背負わされて、生々しく描かれている。憎たらしい者、哀れな者、危なっかしい者。憎しみに執着する者。無定見に噂に流される者。地方都市のコミュニティの中で、殺人事件に伴って彼らが右往左往しながら相互の関係を発酵させてゆく様が、すこぶる面白い。明日までかかる予定だったのだが、ぐいぐいとページが進んでしまった。

 ミステリとしても悪くない。些細でいながら明確な手掛かりが、かなり早い段階でさらりと仕込まれている。些細な手掛かりにも種類があって、カーなんかによくあるのが、そんなの気付くわけないだろ、と思ってしまうタイプ。本書の手がかりは、十分に注意して臨めば気付いたかもしれないと思えるタイプで、秀逸である。私は気付かなかったけれども。