累風庵閑日録

本と日常の徒然

『三味線鯉登』 永瀬三吾 捕物出版

●『三味線鯉登』 永瀬三吾 捕物出版 読了。

 主人公のシリーズ探偵役は、辰巳芸者の鯉登。「こいのぼり」ではなく「こいと」と読む。本名が小糸だそうで。侍が嫌いで岡っ引きが嫌い。でも、常廻り同心桐形月之進の家来魚介のことは妙にお気に入り。酒が好きであわて者の魚介は、普通なら同心の手下なんか務まらないのだが、不思議に事件の真相を言い当てる特技を持っている。実際は、難事件が起きるとこっそり鯉登にお伺いをたてに行くのである。

 捕物帳には岡っ引きが付き物である。だがこのシリーズには、主人公のライバル格として設定されたシリーズキャラクターはおらず、事件が起きた町を縄張りとする岡っ引きがそれぞれ登場する。そんな岡っ引きの誰も彼もが、いつも鯉登に間違いを指摘されて面目を潰され、対立するというのがシリーズの特色のひとつである。

 ところで、私が捕物帳に求めるハードルは低い。伏線だのロジックだの意外性の演出だの、わずかでもミステリ風味が漂っていれば概ね満足である。その点、このシリーズは十分満足できる好シリーズであった。証拠や推理の根拠を重視する視点は、さすがミステリ畑の作家である。

 いくつかコメントを書いておくと、「辰巳うらない」では、死体をじっくり観察した結果から真相を見抜く。「尻っぽ餅」では、関係者の行動の裏の意味を読んで真犯人を指摘する。「功徳四万六千日」では、死体の隠し場所の工夫と心理の盲点を突いたネタが読みどころ。「飛んだ六部笠」では、犯人が仕込んだ偽の手がかりを鯉登が理詰めで覆してみせる。「たのまれ河童」では、犯人のちょっとした言い回しが命取りになる。

 他にも、なにげない質問の答えから犯人の目星を付け動機も見破る某作、特殊な凶器を使った某作、アリバイ偽装の某作、犯人の偽装がかえって鯉登に真相を見抜かせる某作、といったところも秀作である。

●書店に出かけて本雑誌を買う。
『建築知識 7月号』 エクスナレッジ
 今月の木魚庵氏の連載は、「黒猫亭事件」が題材である。