累風庵閑日録

本と日常の徒然

『蜃気楼博士』 都筑道夫 本の雑誌社

●『蜃気楼博士』 都筑道夫 本の雑誌社 読了。

 都筑道夫少年小説コレクションの第三巻である。表題作は中編一と短編二とで構成されるシリーズ。なかでも第一話「蜃気楼博士」が面白かった。不可能興味が横溢しているし、犯人設定はなるほどと思う。二十二年前にソノラマ文庫で読んだときの日記を確認すると、ネガティブな感想を書いていたのだが。二十年も経つと、そりゃあ好みも変わろうというものだ。主人公の少年が事件に関する様々な情報を抜き出して一覧にし、検討を加える。その作業ののち、読者への挑戦が挿入される。この辺も本格ミステリど真ん中の味わいで嬉しい。

 後半は「フォト・ミステリー」シリーズの十二編。写真にも手掛かりが含まれているというのがミソである。もちろん本書にも当時の写真が収録されており、その辺に抜かりはない。解決編では、「手がかりの写真はこれだ!!」としてキーとなる写真が再掲されている。写真が不鮮明で、これじゃあ分からんだろう、というのもあったけれども、それもまた味わいである。

 こういうのはデニス・ホイートリーの捜査ファイル・ミステリーに通じる味わいがあって、なかなかに楽しい。しかも写真には芸能人がゲスト出演しており、約半世紀前の人気芸能人の顔ぶれが垣間見えるのも興味深い。その人選はたとえば、あおい輝彦コント55号今陽子岡崎友紀などなど。

 作品として面白かったのは以下のようなところ。凶器の隠し方にちょっとした盲点を使った「消えた凶器」、男が女もののコートを着ていた理由が面白い「消えた文字の秘密」、マスクの使い方がポイントの「ゴムの仮面」。