●『ハーバード同窓会殺人事件』 T・フラー 論創社 読了。
最初の一行目で死体が登場し、その後は関係者に対する尋問の繰り返し。装飾の少ない、びっくりするくらいストレートな展開である。少なくとも中盤までは、そこにあるのはただミステリの面白さだけ。
中盤以降になると、本筋とは異なる要素がちょいちょい現れる。第二次大戦中の作品で、戦争の影が広く薄く物語全体を覆っているのが見えてくる。大学卒業後十年経って、今の自分の境遇は果たしてこれでいいのかと問う、中年前期の自省も描かれる。
そういった広がりはあるけれど、全体的に、いかにもなミステリらしさが実に好ましい。間接的だが、読者への挑戦と受け取れる文章もある。(伏字)ない結末も、いかにも「らしい」。
●この作者の第一作『ハーバード大学殺人事件』を読んでみたくなった。ついでに書くと、先日『暗闇の鬼ごっこ』を読んだので、同じくケンドリックの『指はよく見る』も読んでみたい。たまたまどちらも手元にあるのだ。こうやって、読めば読むほど読みたい本が増えてゆく。