累風庵閑日録

本と日常の徒然

『死の濃霧』 論創社

●『死の濃霧』 論創社 読了。

延原謙翻訳セレクション」の副題が付いている。編集の趣旨からすれば、訳文を吟味したり他の訳との比較を行ったりするのが望ましいアプローチなのだろうが、そういうのはマニアさんにお任せする。私は収録作をただ作品として味わうことにする。

 イ・マックスウェル「妙計」、マルセル・ベルヂェ「ロジェ街の殺人」、L・J・ビーストン「めくら蜘蛛」の三作は、種類の異なるそれぞれの危険が主人公に迫るサスペンスでちょいと読ませる。

 久しぶりに読むF・W・クロフツの、「グリヨズの少女」は安定の堅実さ。ヘンリ・ウェイド「三つの鍵」は、犯罪の緻密さと警察の丹念なアリバイ追及ぶりと、こちらも堅実で読み応えあり。

 リチャード・コネル「地蜂が螫す」は、昆虫からヒントをもらう個性的な探偵と、突出したものは無いがいかにもミステリ臭のする真相とがなんとも型通りで、こういうのは好み。

 スティヴン・リイコック「五十六番恋物語」は、洗濯物から推理するってのが毛色が変わっていて楽しい。個人的にはこの結末が無い方が好ましく思う。