●『ボニーとアボリジニの伝説』 A・アップフィールド 論創社 読了。
正直なところ、ミステリとしての魅力はあまり感じなかった。この本の面白さは、アボリジニと白人との、時に友好的で時に緊張をはらんだ関係にある。ふたつの民族ふたつの文明の狭間に、興味深い人物達が登場する。たとえば白人文明の教育を受け教師を目指すアボリジニの少女、あるいは白人の牧場主に雇われて自らの部族との緩衝役たらんと意識するアボリジニの青年など。
牧場の近くの野営地に住むアボリジニ達が、事件について何かを知っているらしい。捜査を進めるためには、彼らとの円滑なコミュニケーションが必須である。白人とアボリジニとの混血である主人公ボニー警部の、その辺りのアプローチも読みどころ。
アップフィールドを読むのは初めてだ。巻末解説によれば、本書はシリーズ後期の作品でやや異色作だという。既訳の作品はもう少しミステリ色が強いのだろうか。