累風庵閑日録

本と日常の徒然

『水晶の栓』 M・ルブラン ハヤカワ文庫

●『水晶の栓』 M・ルブラン ハヤカワ文庫 読了。

 四十年ほど昔、あかね書房の少年少女世界推理文学全集で初めて読んだ。以来幾星霜、今回初めて大人向けの訳で読んでみた。するとどうだ、これがもう面白いのなんの。あの頃どうもピンとこなかったのは、ごりごりの本格ミステリ原理主義者だった中学生の私の視野が、この面白さを受け止めるには狭すぎたのだ。

 ただ、面白いとはいっても単純に純粋に物語に夢中になったわけではない。よくもまあこんな、一難去ってまた一難式の冒険活劇を書いたものよと、その作劇手腕にほとほと感心した。

 タイムリミット・サスペンスの要素もあって、終盤になるにしたがって物語は加速してゆく。その疾走感は上出来。敵はあまりにも強大で、ルパンが度々裏をかかれるのもただ事ではない。

 作品が連載されたのはほぼ百年前だそうで。なるほどこりゃあ百年後の後世に残っても不思議ではない面白さである。