累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ヴォスパー号の遭難』 F・W・クロフツ ハヤカワ文庫

●『ヴォスパー号の遭難』 F・W・クロフツ ハヤカワ文庫 読了。

 原因不明の爆発で沈没したヴォスパー号。どうやら保険金搾取の犯罪らしい。フレンチ警部が丹念に、緻密に、堅実に一歩一歩捜査を進めてゆく。だが、証拠も動機も具体的な犯行手順も、まるで分からない。××の線をたどっても何も得られなかったので次は○○の線をたどってみる、というのを何度も何度も繰り返す。いくらページをめくっても光明が全く見えてこない、恐るべきクロフツ流である。

 だが、ミステリ小説なのだから当然どこかで道が開けることになる。そこから先も地道で着実な捜査を積み重ねた果てにたどり着いた真相は、周到な犯罪計画の面白さもあり、着地点の意外さもある。やはりいつものクロフツ、安心安定の読み味で満足であった。

 もう一点、警部は捜査で訪れた波止場で、世界中を探検したい望みをふと思い浮かべる。こうした、ふいに漂う人間味も魅力なのである。

●注文していた本が届いた。
『覆面の佳人/吉祥天如の像』 春陽堂書店
 合作探偵小説コレクションの第五巻である。