●柏書房の横溝正史『蝶々殺人事件』から、由利先生ものの中絶作「模造殺人事件」だけを抜き読み。「蝶々殺人事件」は戦前の事件だが、こちらは戦後が舞台だ。金田一耕助が存在せず、由利先生が等々力警部の良き協力者の座を占めている世界は、ちと不思議な味わいである。
本文の記述によると、事件はどうやら現実の下山事件をモデルに模造されたらしい。それが題名の由来である。表面的な相似だけなのか、下山事件がフィクションの事件の本質に深くかかわってくるのか。今となっては分からない。
このまま戦後も由利先生が活躍するようだと、いずれは金田一耕助との共演も、などとあらぬ想像をしてしまう。中絶がいろいろ惜しいことよ。
●注文していた本が届いた。
『葬られた女』 鷲尾三郎 東都我刊我書房