やはりカーといえば不可能興味である。とはいっても第一の事件の真相はあまりに強引。個人的には第二の事件の方が、状況的にも映像としても魅力的であった。ツッコミどころがないわけではない。犯行手段を示唆する発言は割とあからさまに書かれているのだが、状況がそれを否定している。そこにカーの作為があって、いわば上手くいくように書いたから上手くいったタイプの犯罪である。
犯人の表向きの設定が（伏せ字）なのがいかにも 裏の顔につながるような気がして、なんとなくこの人物が犯人かも、と思っていたので意外さは感じなかった。けれどもそんなのはただの当てずっぽうである。散りばめられた伏線に基づいて考えるのが真っ当な推理であろう。ところが本書はやっぱりいつものカー。結末で明かされる伏線の数々は、些細な台詞の断片や会話の切れ端である。読んでいる途中に気づけるとは思えない。それどころか、ページを遡って該当箇所を探してもあまりにも些細すぎて、とうとう見つけられなかった伏線もあった。これがカーの味である。
誰かが重要なことを話そうとする度に、別の誰かが登場したり何か別の出来事が起きたりで会話がぶった切られる。あまりにそれが繰り返されると大概にしろと思わないでもないが、これがカーの味である。全体として、安心して読めるいつものカーであった。
●注文していた本が届いた。
『ガールフレンド』 伊藤人誉 盛林堂ミステリアス文庫
